夏休みを十分いただきリフレッシュしたといいたいところですが、私の住んでいる札幌でも今年の夏は真夏日が68年ぶり10日間続きました。
みなさんのお住まいもしくは旅先の天候はいかがでしたでしょうか。
天候は地域によって差はあれど、「2000万円問題」は地域も個人の状況も無視した「選挙前に作られた問題」だったようです。
選挙が終われば「2000万円問題」は問題どころか見かけることも少なくなってしまいました。
やっぱりか、と思ったのは私だけではないでしょう。さて前回からの続きです。
「高齢社会における資産形成・管理」はどれを読めばよいのか?
件(くだん)の金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書である「高齢社会における資産形成・管理」は三部構成になっている。
(別紙1)は51ページで文章で説明されており、読むのに抵抗のない人向けである。
(別紙2)は50ページで主に図表が中心ではあるが、これだけでは分かりづらい。
(参考)はたった1ページに要約されているので、少なくともこれは見てほしい。
報告書を読む前に目次を見るだけでもわかるその内容
前述の通り51ページある(別紙1)の報告書のうち37ページ以降は【付属文書】である。36ページの文書を読むことは難しいことではないので「2000万円問題」を知りたければ一読してはどうだろうか。
書いてある内容は今まであちこちで目にしていることで目新しいことではない。せめて目次だけでも眺めてほしい。(ということで目次を書き抜いてみた)
はじめに
1.現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化)
(1)人口動態等
ア.長寿化
イ.単身世帯等の増加
ウ.認知症の人の増加
(2)収入・支出の状況
ア.平均的収入・支出
イ.就労状況
ウ.退職金給付の状況
(3)金融資産の保有状況
(4)金融環境に対する意識2.基本的な視点及び考え方
(1)長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要
(2)ライフスタイル等の多様化により個々人のニーズは様々
(3)公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動
(4)認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうる3.考えられる対応
(1)個々人にとっての資産の形成・管理での心構え
>現役期
>リタイヤ期前後
>高齢期
(2)金融サービスのあり方
>現役期の顧客への対応
>リタイヤ期前後の顧客への対応
>高齢期の顧客への対応
(3)環境整備
ア.資産形成・資産承継制度の充実
イ.金融リテラシーの向上
ウ.アドバイザーの充実
エ.高齢顧客保護のあり方
おわりに【付属文書1】高齢社会における資産の形成・管理での心構え
(1)現役期
長寿化に対応し、長期・積立・分散投資など、少額からでも資産形成の行動を起こす時期
(2)リタイヤ期前後⇒
リタイヤ期以降の人生も長期化していることに対応し、
金融資産の目減りの防止や計画的な資産の取崩しに向けて行動する時期
(3)高齢期⇒
資産の計画的な取崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動する時期【付属文書2】高齢社会における金融サービスのあり方
(1)顧客や社会の変化に応じて、金融サービスに何が求められているか
ア.「長寿化」と「自助の充実」への対応
イ.「多様化」への対応
ウ.「認知・判断能力の低下・喪失への備え」への対応
(2)現役期の顧客に対する対応の方向性
(3)リタイヤ期前後の顧客に対する対応の方向性
(4)高齢期の顧客に対する対応の方向性
(別紙1) 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書
「高齢社会における資産形成・管理」---目次より
パワーポイントを使うとかえって分かりづらいのだが・・
なんでもかんでもパワポやエクセルを使う人がいる。お役人には特に多いような気がする。パワポは簡潔に表さなければかえってわかりづらくなるという悪い例のような資料である。おまけに50ページもある。読む気どころか見る気も失せた。
最後の(参考)はたった1ページである。
ただし、ここに「2000万円問題」が集約されているされているはずだが、どこにも2000万円問題とは書いていない。
「2000万円問題」は厚生労働省の資料をを基にしている?
「2000万円問題」の根拠は(別紙1)の10ページに記載されている。「高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円」という文言だろう。この文言は「第21回市場ワーキング・グループ厚生労働省資料」となっているので、元の資料を見ると24ページに掲載されているそこには「総務省「家計調査」(2017年)」となっている。
要するに金融審議会市場ワーキング・グループの独自の資料でないわけだ。(念のためにリンクを貼っておく)
月5万円の不足が2000万円の不足として問題視されたのは
月5万円の不足×12ヵ月=60万円、20年で1200万円、30年で1800万円の不足となる。
大元の総務省の資料が月5.5万円の不足となっているので、20年で1,320万円、30年で1,980万円となる。これが金融審議会の報告書では「1300万円~2000万円の不足」と記され「2000万円問題」となったわけだ。
「塵も積もれば山となる」と言うが、2000万円が問題ではなく月5万円の不足が問題なのだ。これを問題とするなら2000万円を一気に解決するのではなく5万円に問題の焦点を当てるべきだろう。
金融審議会の報告書の落としどころは(参考)資料を見るべし!
単純な論法である。
(図の部分)
1.高齢化社会になるとみんな長生きしますよ。
2.長生きすると今までよりお金がかかりますよ。
3.そうなると年金だけでは足りなくなるかもしれません。
(赤枠の部分)
4.貯蓄だけでなくNISAやiDeCoで資産を増やしてはどうですか。
5.ただ高齢になるにつれて認知症になったら判断できなくなりますよ。
6.判断できなくなったときの準備をしておいたほうがいいですよ。
(緑枠の部分)
7.金融機関も判断できなくなった人に誠実に対応しましょう。
※ 判断できないからと言って無理やり売ってはいけませんよ。
※は報告書には書いていないが、ざっとこんな感じだ。
それなのに報告書では1と2について詳しく説明したあげく、3で2000万円という金額まで書いてしまった。このミスに選挙前の野党のみなさんが飛びついたのだ。
2000万円問題!2000万円問題!2000万円問題!と。
年金をもらうようになったら年金額に合わせた暮らしをする
給料で生活しているサラリーマンは給料の額の中で生活することを考えるのが当たり前である。同じように年金をらうようになったら年金額に合わせた暮らしをするのは当たり前だ。月5万が不足するのは2017年の総務省の報告でわかっていたはずだし、それ以前にも年金暮らしの不安はささやかれていた。
バブル期のように右肩上がりに給料が上がれば生活も派手になるのは当たり前だ。失われた20年のようにデフレになれば生活も地味になるのは当然だろう。ではなぜ「2000万円問題」が噴出したのかというと、それはひとえに投票に行く有権者が高齢化しているからだ。
いわゆるシルバー民主主義の成れの果てだろう。
金融審議会という名の座談会を取りまとめるのも大変だ
審議会とか協議会とかその目的がよくわからない「会」が世の中にはたくさんある。ほとんどが座談会、井戸端会議の延長みたいなものだ。あの人がああ言った、この人はこう言った、とあちらもこちらも立てて報告書を作らなければならなかったのだろう。
すべてが調査を基にして書かれているので間違いではない。NISAもiDeCoも個人的には活用すべきだと思う。ただ不安を煽って売り文句を並べるのは程度の低い行為だ。
さらに認知症を引き合いに出したのもまずい。認知症にならなくても資産形成や資産運用が上手くいっていない人はたくさんいる。必要なのは現実を知らしめ、正しく適格な知識を伝えることだっただろう。
誰に向けた報告書だったのか
報告書というのは報告する相手が必ずいる。金融審議会は金融担当大臣からの諮問に対しての報告をしなければならない。諮問内容は「市場・取引所を巡る諸問題に関する検討」である。
その内容は、
情報技術の進展その他の市場・取引所を取り巻く環境の変化を踏まえ、
経済の持続的な成長及び家計の安定的な資産形成を支えるべく、
日本の市場・取引所を巡る諸問題について、幅広く検討を行うこと。
「諸問題」「幅広く」の意味を取り違えたのだろうか。
今流行の高齢化と結びつけたかったのだろうか。
NISA、iDeCoを引き合いに出して受けを狙ったのだろうか。
選挙前だし、高齢化した有権者の注目を引きたかったのだろうか。
とんだブーメラ返ってきてしまったようだ。
2000万円問題は喉元に詰まった餅だった
個人差はあるが、これから年金を受給する年代の人は年金だけで暮らしていくことを考えているだろうか。
もし考えているのなら、よほどの年金額を受給するか、既に金融資産を持っている人だろう。ほとんどの人は受給した年金でどのように暮らし、不足分をどのように補おうかと考えているに違いない。
まして年金を受給する時期がまだまだ先の年代は年金だけ暮らしていくことなど考えていないだろう。すでに年金を受給している年代が、そして60代ですでに年金を受給している人が「2000万円問題」におののいたのではないだろうか。
おののく必要はない、「2000万円問題」は例えばの話である。
自分のこれからの人生設計を見直し再設計することは必要である。それは「2000万円問題」とは別のことだ。結果的にいくら不足するのか、それとも不足しないのかは人それぞれである。
大切なことは日本の未来や世界の未来はわからないが、自分の将来は自分で計画できるということである。問題には答えがあり、課題にはよりよい答えがある。「2000万円問題」を問題視している人は、この問題は難しくて解けないよと言っているだけなのだ。だから問題を作った人に答えを教えてくれと言っているに過ぎないのだ。
案の定、選挙が終われば「2000万円問題」と目にも耳にもしなくなった。答えは引き出せないままだ。おそらく求めていたのは答えではなく正解なのだろう。正解かどうかは誰もわからない。わからないからダラダラと問い詰めているのだろう。そんな時間はない、自分なりの答えを出すことが最善策である。
喉に詰まった餅は命取りにはなるが、喉元を過すぎれば忘れてしまう。喉の太さ(収入)と餅の大きさ(支出)を比べれば自ずと分かることなのだが。
さて、あなたならどうするだろうか?